研究者を目指すあなたへ

もし高校野球の女子マネージャーが研究を始めたら

島元 紗希(鹿児島大学)CV
2026年1月

私が畜産・栄養学の研究に興味をもつようになったきっかけは、高校時代の野球部での経験にあります。といっても、私は選手ではなくマネージャーでした。ただひたすらボールを拾い、ひたすら選手たちを眺めていた側の人間です。今思えば、観察力はこの頃にしっかり鍛えられたのかもしれません。ある日、ノックボールを監督に手渡しているときに、突然こんなことを聞かれました。

「どうして〇〇君はマッチョなのに、△△君はどうしてあんなにガリガリだと思う?」

あまりにも唐突な質問に、私は思わず「そんなの私に聞かれても分かんない!」と答えました(マネージャー失格?笑)。このやり取りはその場では笑い話で終わったのですが、しばらくの間、頭の中で何度も繰り返されていました。確かに、同じようにトレーニングし、同じように食べているはずなのに、体格にははっきりと差があります。強豪校の選手たちを見たときには、「えっ、同じ高校生とは思えない…」と、ただただ圧倒されることもありました。監督から投げかけられた“どうして?”は、いつの間にか私自身の“どうして?”に変わり、「体格の違い」というものが気になるようになっていました。ただ、当時の私はそれを深く掘り下げて考えるほど大人でもなく、日常の中に紛れて、その疑問は少しずつ記憶の奥にしまわれていきました。

高校卒業して進学しましたが、特別これをやりたい、これを学びたいという意識もなく、将来が全然見えていませんでした。いろいろな授業を受けながら、「自分は何に興味があるのだろう」と模索している時期が続いていました。研究室配属の時期になり、その時点で最も興味をもっていた栄養学の研究室に入りました。

研究室に与えられたテーマは、「筋肉タンパク質分解の抑制機構を明らかにすること」でした。当初はその意味を十分に理解できていたわけではありませんが筋肉という身近なテーマだったこともあり、次第に「これ、意外と面白いかも」と感じるようになっていきました。「せっかくなら、まずは目の前の実験をしっかりやってみよう。先生の言うとおりにやってみよう」と思いながら取り組むうちに、実験に向き合う時間そのものが楽しくなり、このテーマが私にとって研究の面白さを知るきっかけになりました。

研究室ではよく肉用鶏を実験で用いており、みんなの研究を手伝いながら世話をしていく中で、同じ品種、同じ系統、同じ飼料、同じ環境で育てているにもかかわらず、ヒナの時点で2倍ほどの体格差が出る様子を目の当たりにしました。その光景を見たとき、「あれ、この感じ、何か見覚えが……あ、高校のグラウンドじゃん!」と思ったのを今でもよく覚えています。ここでようやく、記憶の奥にしまわれていた『どうして?』が、はっきりとよみがえってきました。

さらに考えてみると、この体格差は単なる“個体差”ではなく、肉用家畜でいうと肉量に直結し、産肉性や生産性にも大きく影響する問題だということに気づきました。つまり、この「ばらつき」を小さくすることができれば、畜産の現場にとっても非常に重要な意味を持つのではないか、と感じるようになりました。筋肉の量が違うということは、体内でのタンパク質の合成や分解のバランスが違うということでもあります。そう考えると、与えられた「筋肉タンパク質分解」というテーマが、実は自分がずっと気になっていた『体格差の正体』とつながるかもと気づきました。そこから私は、「なぜ同じ条件でも差が出るのか」「栄養学の視点でこの現象を説明できないのか」と考えるようになり、初めて指導教員に「この方向で自分のテーマとして取り組んでみたい」と相談しました。今振り返ると、研究を“自分ごと”として考え始めたのは、この頃だったように思います。

現在は、タンパク質代謝という視点を起点に、鶏肉としての品質の個体差、つまり「なぜ同じ条件で育てた鶏でも、肉質にはばらつきが出るのか」という問いに取り組んでいます。高校時代にはただの素朴な疑問だった「どうして?」が、気がつけば研究テーマになっているのですから、なかなか面白いものです。

振り返って思うのは、最初からやりたいことがはっきりしていなくても、まずは目の前のことをやってみることが大事なのかもしれないということです。当時はただ与えられた課題に取り組んでいただけのつもりでしたが、時間がたってみると、それらがすべて今の研究につながっていました。日常の中にある「ちょっと気になる」「なんとなく不思議だな」という感覚が、ある瞬間にひらめきへと変わることがあります。これから研究の道に進む学生の皆さんにも、ぜひそんな感覚を大切にしながら、まずは目の前のことに向き合ってみてほしいと思っています。

生産現場で生じる肉用鶏の体格差

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