研究者を目指すあなたへ

社会人博士レポート

澤戸 利衣(農研機構)CV
2026年1月

このたび社会人博士として学位を取得しましたので、その体験を記します。在学中、不安になるとネットで同じように社会人学生として学位を取得した人の文章を読み精神を安定させていたものです(不安になるものも沢山ありましたが)。これらの情報に何度も助けてもらいましたので、本稿も後に続く皆さんの情報源の1つになれば幸いです。

■なぜ博士号を取得しようと思ったのか。

海外で研究をしたいという思いがあったからです。私の知る限りでは、海外で独立した研究者として働く場合、博士号が必須です。また、学位取得は研究人生のスタート地点とも言われています。もちろん、学位を持っていらっしゃらない方で素晴らしい研究をしている方は沢山います。「学位は一人前の研究ができる証ではなく、踏ん張れる人間の証である」とおっしゃる方もいました。とにもかくにも肩書きであり、わかりやすい指標です。日本であっても研究者として生きていくのに、取得して損はないと考えました。

■農研機構は社会人博士に対する理解が深い

一般的な社会人学生のイメージというと、日中は仕事があるため、研究活動は平日の夜と休日などで行う必要があります。「社会人学生には基本的に人権が無い」というなんともリアルな声も聞いたことがあります。働いて論文書いて働いて論文書いて働いて・・・という毎日なわけですね。私の場合、職場で自分が関わっているプロジェクトをベースに学位論文を仕上げることができ、通常の仕事の延長線上に学位研究活動があったことは、幸いであったと思います。農研機構では、入構してから学位取得を目指す人が多いです。学位取得に対しての周囲の理解は深く、積極的に取得を後押ししてくれたのも心強かったです。

■NAROサブPの紹介

私は、筑波大学のNARO先端農業技術科学サブプログラム(通称NAROサブP)に入学しました。本プログラムの特徴として、農研機構に在籍する研究者が大学院教員を兼任し研究指導を担当します。学生にとっては、最前線で研究をしている研究者の元で研究活動を行えることが最大のメリットです。授業やゼミも、先生によりますがそれほど多くありません。筑波大学自体も社会人学生に理解があり、なんと最短1年で取得できる爆速コースが存在します。事前準備をしっかりとして、計画的に取り組むことで可能です。
 今回は自分が入学した大学の紹介をしましたが、研究室選びで重要なのは、「大学」より「指導教員」であるというのが私の意見です。大学教員と関わる機会を大切にし、「この人の指導の下で研究を発展させたい!」と感じる人を、まずは探してみてください。

■学位取得までのスケジュール

2022年4月 入学
2023年 論文執筆開始
2024年 1月投稿→リジェクト→再投稿→7月受理
2024年 6月 中間審査
2024年 7月 国際学会参加
2024年 11月 予備審査
2025年 1月 公開審査、学位論文提出
2025年 3月 卒業
 正直なところ、研究は思ったように進んでおらず2025年春の修了はあきらめていました。しかしながら指導教員の熱烈な応援と細やかな指導により、何とか卒業することができました。「僕はあなたが卒業できると信じています!」と指導教員に言われたことが今でも印象に残っています。指導教員への感謝の思いを書き始めると、皆さんに永遠とスクロールしてもらうことになってしまうので控えますが、本当に感謝しています。ということで、私の学位取得に向けてのエンジンは2024年4月(3年目)にかかりました。

■博士課程3年目

2024年4月に来年の春卒業を目指し動き始めました。まずは、引き伸ばしていた中間審査です(本来は2年目に実施するもの)。中間審査は、副査の先生方にも自分の内容の概要をつかんでいただく場として認識し、説明しました。先生方からも、細かい部分ではなく、広い視点での質問や今後の方針などについて助言をいただきました。理想は、入学した段階から副査の先生方に定期的に内容を見てもらうのが良いです。早いうちから多面的に指摘してもらうことで、皆さんの研究はより洗練されます。
 7月頃から学位論文執筆に着手し始めました。ぼんやりした章の流れも、文章にすることで問題点や強調すべき点が見えてきます。骨格を先に作成し先生にもチェックしてもらうと良いでしょう。この年は初めての国際学会にも挑戦し、忙しさにてっぺんは無いことを知りました。コロナに感染し、自宅療養と称してパリオリンピック観戦を満喫していたのも良い思い出です。

■元気があれば何でもできる

皆さんに一番お伝えしたいのが、“休養の大切さ”です。この1年で2度も体調を崩しました。これまで、体力には自信があった私は、「週休2日は現代人が定めた単なる制度にすぎない。自分が休むタイミングは自分で決める」といきっておりました。しかし身体は正直なもので、精神と身体が限界に近づくと免疫の壁はもろく崩壊し強制的に休まざるを得ない状況に陥ります。一旦崩れると回復にも時間がかかり大幅な時間損失になりますので、精神と身体の声にはしっかりと耳を傾けて生活してください。ネット上では「睡眠時間を削って研究活動し学位取得した」という体験談も多数ありますが、私は逆に睡眠時間を増やしました。身体が万全の状態なら、何でもできます。

■気持ちの保ち方

課程3年目に結婚しました。なぜこの時期に?と自分でも思いますが、研究活動の優先順位が高まるにつれて、別のイベントに対するハードルや慎重さが相対的に下がったからと推察しています。良く言うと思い切りが良くなりました。結果的に、私にとっては吉と出ました。日々の業務で全然執筆が進まず焦りが募る時も、毎日多方面からお祝いの言葉や前向きで明るいエネルギーをいただき、次の日にはすっかり回復してまた研究活動に向き合えました。パートナーも良き理解者で、曜日関係なく職場に向かう私を文句も言わず見送ってくれ、「新婚なのにおひとり様」という状況を楽しんでくれました。このように、自分の気持ちをアゲていく仕掛けを意図的に設定するのも良いかもしれません。

■エール

課程最後の1年は、「生まれ変わったら絶対に博士課程には進まない」と思うほどでしたが、今振り返ると貴重な経験でした。研究の背景や横の広がりを徹底的に調べたことで、自分の研究の意義を再認識し、無数の先行研究の積み重ねの上に自分の研究が成り立っていることも実感しました。Google Scholarの「巨人の肩の上に立つ」という言葉に「まさしく!」と共感しながら検索するようになりました。
 研究とは、まだ誰も知らない境地に進むことであり、世界の常識とされている枠組みの淵に蹴りを入れる行為です。不安で当然です。それでも踏ん張って、進んでいくことに興奮やワクワクを覚える。私達はそんな変態なのです。大抵のことは後で笑い話になるので安心してください。この文章が誰かのお役にたてば幸いです。

写真 効果抜群のアニマルセラピー

NARO連係先端農業技術科学サブプログラム

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