研究者を目指すあなたへ

インコに導かれて

新居隆浩(広島大学)CV
2020年1月

私はニワトリの生産機能を高めることを目的として、主に免疫機能強化の観点からニワトリを健康にするための研究を行っています。今回は私が研究者を志すまでのお話をさせていただきます。研究者を志す学生さんの参考になれば幸いです。

キジも闊歩する埼玉の田舎で少年期を過ごした私は、他の多くの先生方と同様に生き物が好きな子供でした。プリンカップいっぱいにダンゴムシを詰めて学校から帰宅しては母に叫ばれ、ランドセルを投げたら友人とザリガニ取りに田圃へ走る。真夏の炎天下、数時間にわたり汗をダラダラかきながらアリの行列をじっと眺めていたことも。こうした「生き物好き」になったきっかけは色々とありますが、1番は6歳のころから飼い始めた1羽のセキセイインコとの出会いだったように思います。私にとって、インコの行動も仕草もすべてが面白く、気が付くとあらゆる生物の中で鳥類が一番好きになっていました。そんな当時の夢は生物学者になること。

中高生時代はキレイさっぱり夢を忘れて遊ぶことに夢中になっていたものの、進路選択の時期が迫ると少しずつ現実に向き合うことに。ここでも進路に影響したのは我が家のインコ(2代目)。このインコを診てもらうために通っていた鳥専門の獣医さんに憧れて、獣医を目指しました。しかし、因果応報、遊んだ時間はある意味裏切らず、結局成績が足りずに獣医師の夢は断念しました。浪人の末、鳥にかかわる勉強がしたいということで日本獣医生命科学大学の動物科学科に進学しました。この時はまだ畜産動物(ニワトリ)に興味はなく、愛玩動物(インコ)にしか興味はなかったと思います。

鳥類だけではないものの、動物全般の勉強が楽しくてしょうがなかった学部生時代。3年生に上がったところで私にとって大きな転機となる研究室配属がありました。研究室選択に悩む友人の中、私は1つの研究室、もっと言えば1人の先生(O田先生)にだけ熱視線を向けていました。O田先生はニワトリだけでなく、セキセイインコやペンギンの栄養代謝の研究もされており、そのテーマを聞いたときに「これだ!!」と身震いしたことは今でも覚えています。研究室配属される頃には漠然と大学院に進学して研究者になりたいという思いがあったため、「O田先生の元で勉強すればインコの研究者になれる!」と確信めいたものを感じていたのでしょう。しかし、現実はそんなに甘くはなく、「将来研究者を目指すなら、鳥類の基本になるニワトリの勉強をしなさい。インコの研究がしたければ、将来自分の研究基盤を作ってから。」とアドバイスを頂き、泣く泣くニワトリ胚の糖代謝に関する研究をすることに。最初こそニワトリに興味が持てない…などと言っていたものの、飼育するうちにニワトリにも愛着が沸き、次第に自分のテーマを持つことで研究に対する興味も強くなりました。ならば大学院へ進学して、O田先生の元で研究者を本気で目指そう!と気持ちを固めたところで大事件が。それは、O田先生からの「受け入れ拒否」でした!

決してO田先生が悪魔のような非情な人なわけではありません。O田先生に言われたのは「本気で研究者を目指すのなら、知り合いの居ない外の環境に出て、自分の力で新しい人脈を作って生き残れ。」ということでした。このアドバイスは私の人生において間違いなくプラスになったと思います。オカメインコのいる実家を離れる迷いもありましたが、私に懐かず指を噛み千切ろうとする姿に後押しされ、広島大学への進学を決意しました。

広島という新天地で、私の研究者人生を決定づける恩師との出会い、そして現在の研究の基盤となるニワトリの粘膜免疫に関する研究を始めることになりました。私の場合は広島大学への大学院進学の段階で博士課程まで進学することを決めていたので、修士から博士への進学に迷いはなかったです。その後は研究の楽しさにすっかりハマり、学会発表や論文執筆などを重ねて一歩ずつ研究者への道を歩んでいきました。

学位取得後は日本ハム株式会社の中央研究所でポスドクをさせていただく機会があり、この期間は自分の弱点だった「研究の応用利用」の考え方を学ぶ貴重な時間となりました。そして現在は縁あって広島大学に戻り、企業で学んだことを活かし、生産現場への還元というゴールを明確にしたうえで、基礎から応用まで幅広く研究しています。鳥類の免疫機能強化の研究は、獣医さんのように1対1で鳥に向き合い、助けるものではありませんが、1対数万という単位で鳥の健康に寄与できる可能性があります。今は1羽のウロコインコと2羽のヒメウズラとともに生活しており、いつか自分の研究成果を家禽生産だけでなく、彼らインコ等の幅広い鳥類の健康のために活用していくのが密かな目標です。

このように、今私が研究者として在るのには、他の先生方のような立派な理由があるわけではありません。少し幼稚かもしれませんが「鳥が好き」という単純な想いがあるだけで、インコに導かれるようにここに辿り着きました。学生のころ、「そんな幼稚な理由はカッコ悪い」と誰かに言われたことがありましたが、余計なお世話です。理由なんて人それぞれでいいのかな、と思います。研究者を志す学生さんも、自分の好きなもの、好きなことに自信をもって向き合ってみてください。その先に道はあるかもしれません。

ねっとり遊ぶ我が家のウロコインコ

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